異次元緩和“空中分解”の最悪シナリオ ・・・
注目の人 直撃インタビュー
【転載開始】
■異次元緩和“空中分解”の最悪シナリオ
8年前に黒田日銀に警鐘を鳴らした
エコノミストが危惧
公開日:2022/05/30
「円安は日本経済にとってプラス」。
1ドル=130円という超円安に突入し、
日銀・黒田総裁が9年間繰り返してきた
この言葉を信じる人は、もはや誰も
いないのではないか。
アベノミクスの異次元緩和が始まって
1年後の2014年に
「日銀、『出口』なし!」を著し、
「日銀はルビコン川を渡ってしまった」
と警告していたエコノミストをあらため
て訪ねた。
◇ ◇ ◇
──「日銀、『出口』なし!」を出版
されてから8年。まさにその通りになって
きました。
あの本は、出口がない状態に陥る可能性
が高いゆえに、そうならないよう気を付け
ないと、という趣旨だったのですが、
実際その方向に来てしまいました。
金融緩和策で日本経済の問題を解決するこ
とはできないということです。
金融緩和策には痛み止めという効果はある。
痛みを和らげている間に、構造改革に進む
ことができればいいのですが、痛み止め策
が効いてくると、得てして、このままで
いいか、ということになりがちで、
そういう形でずっと来てしまっている。
──黒田総裁は今も「円安は日本経済に
とってプラス」という主張を変えません。
金融緩和策を始めて今10年目に入ってい
るわけですが、それは日本経済の改革が
進んでいないことの表れでもあります。
例えばデジタル化など、新しい時代に適応
する経済へと変革が進んでいたのであれば、
通貨安に依存する必要性はなくなっている
はずです。
──弊害の方が目立ってきた。
黒田総裁の緩和策の主要な問題のひとつ
は、低金利により、財政規律がより一層
緩んだこと。
緩和が始まる前より、明らかに国債増発に
対する警戒心が緩んでいます。
昨夏ぐらいから、海外では大半の国が、
ポストコロナを意識した財政運営に転換
してきています。
コロナの非常事態ということで、補助金
を散布してきたわけですが、例えば英国
では昨秋、ジョンソン首相が、このまま
では健康保険制度を維持できないとして
今年からの増税を表明した。
ドイツも先日、財務大臣が、来年から国
の借金にブレーキをかける制度を再導入
すると言っています。
米国も空前のばらまきをやったのですが、
昨年の途中から財政支出策は必ず財源と
セットで議論すると変わってきています。
ところが日本だけは、金利が低いことも
あり、そういう議論が出てこない。
日銀の政策が非常に効いています。
■黒田総裁は今の円安を最後のチャンス
と思っている
──円安が物価高を加速させている。
黒田発言と消費者の体感にズレがあるの
に、なぜか黒田総裁は意に介さない。
もうここまで来ると、黒田総裁として
は方向性を変えられないということで
しょう。
来年4月8日の任期まであと1年。
むしろ今起きている円安を最後の
チャンスと思っているのでしょう。
──しかし、どう考えても日本経済が
良くなる感じはしませんが。
この状況に既視感があって、19年の
スウェーデンと似てる面があるんです。
当時スウェーデンもマイナス金利政策を
やっていて、通貨が下落していくこと
で輸出産業がにぎわい、インフレ率が
上がっていくことを目指していた。
ところが、国民の不満がだんだん
高まっていきましてね。
「おかしいんじゃないか」という声が
広がった。
これは極めて当然で、行き過ぎた通貨高
を止める話と、さらなる通貨安にするの
は、国民からするとやはり違う。
通貨安が進むということは、国民の
購買力が低下していくことになり、生活
は苦しくなる。
しかもスウェーデンは、世界有数の
デジタル先進国。
企業も通貨安をあまり喜ばない状態に
なっていて、通貨安に依存しない経済に
変わっていた。
結局、中央銀行が批判に耐えられなく
なり、19年12月にマイナス金利を解除
した。
日本の状況はそれと似てきています。
■初夏から物価高が本格化、国民の不満
に耐えられるのか
──黒田総裁である限り、物価高は
止まりませんね。
日銀自身も展望リポートで言っていま
すが、08年にもエネルギー価格と食品
価格の上昇があり、その頃のペースに
比べると、今回は結構上がっているよう
に感じていても、特に食品はまだ遅い。
まだ途中なんです。
初夏ごろから食品価格の上昇は、本格化
してくると思います。
イオンや西友がプライベートブランドの
値段を6月までは上げませんと言って
いますが、7月以降は値上げを始めたり
すると、それをきっかけに、いろんな
食品価格がより上がっていくこともあり
得る。
政府・日銀は最低でも参院選までは
金融政策を触らない考えだと思います
が、初夏以降、より本格化していくで
あろう食品価格の上昇に対して、国民の
不満が高まってきた時に耐えられるのか
が注目されます。
──日銀が政策を変えないなら、最悪
シナリオとして、どういうことが起こり
得るのでしょうか。
もはやソフトランディングが難しいの
で、仮に円安・物価上昇に対する国民の
不満が高まり、政府にこれはまずいぞ、
という意識が出てきたら、空中分解のよう
に急に緩和が修正される恐れはあります。
米FRBのようなマーケットに事前に予告
して織り込ませるという丁寧な手法では
なく、寝耳に水みたいな感じで10年国債
の金利の誘導をやめますというような
発表になるかもしれません。
なぜなら、予告すれば、金利が上がるん
だなということになって、マーケットは
保有する国債をできるだけ日銀に売って、
少しでも自分たちの損失を減らさなきゃ
と思うわけです。
日銀は今、10年金利を0.25%で抑え込む
という無制限の「指し値オペ」を毎日
やっていますので、政策変更を予告して
膨大な国債を打ち込まれたら、それを
買わなければならない。
そこで、マーケットに予告しないで急に
やめる可能性があるわけです。
そういう意味では短期的な問題は、
この政策が維持できなくなった時に
マーケットで混乱が起き得るということ
です。
──それは恐ろしい。
一方で、なんとか黒田さんが来年
4月8日まで逃げ切ったとしても、
今度は次の総裁が正常化の重い十字架
を背負わされる。
政策が来年まで継続できたらできたで、
より将来の出口政策が難しくなって
いきます。
──本当は早く手を打たないとまずい
んじゃないですか?
そもそもこの政策が10年目に入って
いること自体が大きな過ちと言えます。
大規模緩和全体をやめることは非常に
困難で、これだけ国債の発行額が増え
てしまうと、美しい形での出口政策は、
もうあり得ない。
微修正はあっても、今FRBが進めている
ような、短期金利を上げていって、
量的引き締めで、というような自発的な
出口政策はもうできません。
あるとすれば、悪い円安が止まらないの
で、金利を大幅に上げざるを得ないと
いう、危機を止めるための出口政策で
しょう。
──アベノミクスの功罪をどう考えま
すか。
最初は日本経済を明るくした。
きっかけづくりとしては良かった面は
あったと思います。
しかし痛み止め策は得てして改革を
遅らせてしまう。
他の先進国及びアジアの新興国を見渡し
ても、日本経済全般に変化が遅いですよ
ね。
経済の新陳代謝が低下した状態にある。
強大な痛み止め策ゆえに、近年の日本
では会社は潰れにくく、その結果、
日本の失業率は世界屈指の低さです。
だが、低収益の企業がたくさんあり、
給料も上がらないという停滞した状況
に陥っています。
北欧では給料が目覚ましく伸びている
ように、成長産業への前向きな転職を
可能とする社会人の再教育制度などの
セーフティーネットに財政資金を使う
のは意義があります。
しかし、砂漠に水をまくようなお金の
使い方をすると、人口減少社会ゆえに
将来世代が背負わされる1人あたりの
政府債務はどんどん膨らんでいきます。
■将来世代のための政策運営を他国は
やっている
──失われた20年が、30年になりま
した。
100年後の経済を議論するのは難しい
ですが、昨年亡くなられた経済学者の
池尾和人先生も、せめて目先数十年ぐら
いの国家のことを考えながら政策を
やっていきましょうよ、とおっしゃって
いました。
自分たちの子供、孫の若い頃ぐらいまで
はイメージした政策運営というのを考え
ていかないと。
他の国はやってるんです。
昨夏ぐらいからの、財政を徐々に正常化
させようという海外諸国の議論も、
将来世代のための議論なのです。
(聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ)
▽加藤出(かとう・いずる) 1965年、
山形県生まれ。88年、横浜国立大卒。
東京短資に入社し、短期金融市場の
ブローカーとエコノミストを兼務。
2002年から東短リサーチチーフエコノ
ミスト。13年2月から同社代表取締役
社長。「日銀、『出口』なし!」(朝日
新書)など著書多数。
【転載終了】
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長期的な緩和は決していいことでは
ないのですが、安倍晋三が輸出企業を
優遇する施策ですね。
当時は副作用に悩まされ、今は遺症
に悩まされているという事でしょうか
ね。
安倍政権を支持した国民の責任です
ね。
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