『自動車会社が消える日』の衝撃・・・

現代ビジネス


【転載開始】

 トヨタは自動車業界「100年に1度の破壊と創造」を生き残れるか

 『自動車会社が消える日』の衝撃

 2018.01.28 梶山 三郎 現代ビジネス


本書が見通す、未来の自動車業界地図、

そして日本勢の生き残りの可能性とはーー。


■産業界の「王」の激変


 2万点以上の部品で構成される自動車は、機械、

鉄鋼、化学、電気・電子など、あらゆる分野の産業

から資材を調達して組み立てられる。

だから雇用を創出する力といい、国庫に納める税金

の額といい、自動車産業の社会的な影響力は、

他の製造業とは比べものにならない。

製造業の「王様」といわれる所以である。


 アメリカのトランプ大統領が昨年、トヨタを槍玉に

挙げて日本の自動車メーカーに対米投資を迫ったのも、

自動車産業が景気に与える影響が少なくないからだ。

アップルやグーグルなどの巨大なIT産業が台頭する

まで、自動車産業は、産業界の頂点に位置する存在

だった。

「自前で自動車を造ることができるようになって初めて

先進国の仲間入り」とも言われた。


 『自動車会社が消える日』は、「王様」の自動車産業に、

EVや自動運転など、100年ぶりのパラダイムシフトが

到来していることを、事例を積み上げて具体的に

わたしたちに教えてくれる好著である。

 「え⁉ 世界はここまで進んでいるのか」と冒頭から

驚かされることばかりで、クルマ開発の最前線事情が

紹介されるが、後半ではそれを踏まえて、トヨタやホンダ、

日産、マツダ、VW(フォルクスワーゲン)といった個別

企業の動向が鳥瞰図のように位置づけられる。


■日本メーカーは蚊帳の外


 本書のタイトルは過激だが、たとえトヨタのような

巨大自動車企業でも時代の流れを見誤ると、

変化の渦に呑みこまれて存在感が消え失せてしまう

のではないかと問題提起したい気持ちもよくわかる。


 なかでも米シリコンバレーに拠点を置く「ユダシティー」

という企業の動向が興味深い。

グーグルで自動運転を担当していた元役員が設立した

会社で、オンラインを通じて人工知能(AI)やセンサー

などの最新技術を習得できるサービスを提供している。

世界で約400万人の技術者が登録しており、学び直しに

活用しているそうだ。技術革新が速く、知識が陳腐化

していく時代に求められるサービスと言えるだろう。


 ユダシティーは、教育を通じて「生産技術」と

「クルマのプラットホーム」のデファクト・スタンダードを

狙っていると、筆者は見る。

愕然とさせられるのは、同社のパートナーとして、

ドイツのダイムラーやボッシュ、画像処理の

プロセッサーに強い米エヌビディア、米アマゾン、

米フェイスブック、韓国のサムスンなど、錚錚たる

グローバル企業が参画しているのに、トヨタなど

日本企業は一社も入っていないことだ。


 驚くのはまだまだ。

ドイツの電装品の会社「ボッシュ」は、自動車に搭載

されているソフトウエアを、ネット環境を通じて書き

換えるサービスを2018年から始めるという。

「新車購入後にも追加で新しいソフトウエアがダウン

ロードでき、スマートフォンと同じようなことが自動車

でも体験できる」と担当者。

「クルマのスマホ化」は、すでに始まっているのだ。


 いまやクルマはソフトウエアの固まりである。

その量はプログラムの「行数」で示されるのだが、

ボーイングの最新旅客機が800万行だそうだが、

高級車になると、1000万行を超えるソフトを搭載

しているという。

AIの技術が駆使される自動運転の時代になって、

その動きは加速する。


 新車開発の最先端では、宇宙開発などで用いられて

きたシミュレーション技術(バーチャル・エンジニアリング)

が不可欠になっているという。

試作品を実際に作るのではなく、仮想現実の上で

「つくった」試作品をあらゆる条件を入力して試すことで、

工程数も開発日数もそしてコストも、驚異的に圧縮する

開発手法である。


 この画期的な技術で、日本はドイツに出遅れたと

筆者は指摘する。

これまで日本企業の「強み」だったものが、いまや

「弱み」に逆転してるのだという。


 日本は「開発セクション」の設計に不具合があっても、

工場で何とか対応してしまう「現場力」が強く、

日本の自動車メーカーの競争力の源泉の一つは

そこにあった。

いわば「匠の技」と言えるものだが、ドイツはこの

「高い現場力」がなかった。

だから開発セクションが「匠の技」に頼らない方法を

編み出し、シミュレーション技術が長足の進歩を遂げる。


■未来はすでに来ている


 各メーカーの論評では、今のトヨタの経営陣に批判的

なのが印象に残る。


 わたしの小説『トヨトミの野望』では、莫大な広告

スポンサーでもある巨大自動車企業の『トヨトミ自動車』

を「忖度」して、トヨトミのマイナスになることを大メディア

が報じないシーンを描いたが、本書では、ふだん全国紙

や経済紙で読んだこともない、トヨタ内部で起きている

「地殻変動」を目の当たりにする。


 安全管理が厳しいはずのトヨタの本社地区に火災が

発生して入社式が遅れたとか、最新鋭の工場が大火事

になった原因がダクトの定期的な清掃を怠ったことだとか、

豊田章男社長の意向を忖度したのか、かつて社長の

「教育係」だった年長の相談役が副社長に返り咲くなど

摩訶不思議な役員人事がおこなわれたり、意思決定が

遅れていることなど、如実に語られている。


 ネガティブな話ばかりではない。

トヨタと提携したマツダの戦略の成功は、暗い話題が

多い日本の産業界にあって、貴重なひとつの光明だ。

10年ほど前まで経営危機に陥っていたマツダがなぜ、

「スカイアクティブエンジン」を世に送り出すことができ、

その後もヒット車を連発して復活できたのか、関係者

たちへの綿密な取材によって、その「秘密」に迫って

いる。

企業再生のケーススタディーとして読むことができる

だろう。


 『トヨトミの野望』は、日本の自動車企業が世界一に

なるまでの、企業内部で葛藤する人間模様を描くことで、

その先にある未来を「予言」したフィクションだが、

こちらは、100年に一度のパラダイムチェンジが起きて

いる生々しい現場をとらえた、圧倒的なノンフィクション

である。


 本書は、未来がすでに到来していることを私たちに

伝えてくれる。

その未来が明るくなるのか、それとも暗いものになる

のか、それは本書を読む読者の手に委ねられている。


【転載終了】

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 昨年、トヨタの人事についての記事がありました。


 豊田章男社長寄りの人物達を重用している

というものでした。

まさに、文中にあるようなことのようです。


 しかし、日本は自動車産業が経済を支えているのも

事実ではありますので、EV化などクリアしなければ

ならない壁もあります。


 大手企業の不正問題もあり、日本企業の正念場

なのかもしれませんね。


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