高齢者ドライバー問題で考えるべき、免許返納後の高齢者の「足」問題
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【転載開始】
■高齢者ドライバー問題で考えるべき、
免許返納後の高齢者の「足」問題
2018年06月23日
昨年、改正道路交通法が施行され、
高齢者ドライバーによる交通事故対策
が強化されたが、関連する事故は依然
減少の様相を見せない。
先日90歳の女性が、同法によって
75歳以上に義務付けられた「認知機能検査」
を通過し、免許を更新した直後、4名の死傷を
出す事故を起こしたことは記憶に新しいところだ。
女性は、「家族から勧められたが、免許を返納
するつもりはなかった」と供述したという。
警視庁がこのほど発表した昨年の運転免許
保持者数は、約8,200万人。
そのうち75歳以上の免許保持者は約540万人
で、うち約25万人が自主返納した。
10年前の約1万9,000人から比べると、その数
は13倍に増加。
徐々に高齢者運転の危険性が周知されてきて
いることが窺える。
しかし、これほど関連する事故が多発する中
でみると、返納率4.6%は、決して高い数字とは
言えない。
高齢者ドライバーが免許を返納しないその
理由には、2つある。
■高齢者ドライバーが免許を返納しない理由
1つは、高齢者自身にある運転技術に対する
「過信」という心的要因だ。
MS&AD基礎研究所株式会社が昨年行った
「自動車運転と事故」に関するアンケート調査
によると、「運転に自信があるか」という質問に、
「ある」と回答したのは、20代が49.3%である
のに対し、80歳以上は72%にものぼる。
反対に、自信が「ない」と答えたのは、
20代が24%で、80歳以上は5%程度だ。
しかし、実際の高齢者ドライバーによる
死亡事故が、それ以外の世代より2倍以上
発生率が高いところに鑑みると、彼らの
こうした過信は、もはや「自分はまだ大丈夫だ」
という不安感情の裏返しとも読めてしまう。
もう1つの理由は、「足」問題という実質的
要因にある。
同庁が実施したアンケートによると、
自主返納をしようと思ったことがある運転
継続者の約7割は、返納をためらう理由を
「車がないと生活が不便だから」と回答した
という。
同庁が統計を取り始めた昭和41年の
免許取得者は約2,300万人。
当時18歳だったドライバーは、今年70歳に
なる。
クルマ離れが叫ばれる現代の若者とは
対照的に、高度経済成長の只中に生まれ、
バブル時代を謳歌した彼ら団塊以前の世代
は、終身雇用で安定した収入を得ながら、
郊外にマイホームを購入し、何台ものクルマ
を「足」として乗り繋いできた。
そんな彼らにとって、「免許返納」が生活
をどれほど変えることなのかは、想像に
難くない。
筆者の父も、そのうちの1人だ。
父は元々クルマが好きで、趣味や通勤、
引取り先までの「足」としてはもちろん、
経営していた工場で製造するモノまでが
クルマだったが、病気の後遺症で記憶障害
を抱えて以降、その全てから遠ざかることに
なった。
工場閉鎖後は、しばらく庭いじりに興じて
いたが、自宅は中途半端な田舎で、
肥料やスコップなどの庭道具は自分の
「本当の足」だけでは買いに行けない。
それゆえ、「道具がない」を言い訳に適当に
作業を終わらせると、昼の情報番組で夕食
までの時間を潰すようになる。
多忙の家族に代わり、買い物くらい行って
きてほしいところだが、一番近いスーパー
でも徒歩で往復1時間ほど。
スナック菓子を買いに行くのならば、散歩
にもカロリー消費するにもちょうどいい距離
だが、コメ・味噌・醤油となれば、そんなことも
言っていられない。
こうして「足」のない父の行動範囲は徐々
に狭まり、工場で働いていた時の「力強い彼」
からは想像もできないほど足腰も弱くなって
いくと、雑草むしりさえもしなくなり、やがて
家の中に引きこもっては、「鉄格子のない
牢屋にいるみたいや」なる言葉を繰り返す
ようになる。
そんな高齢者の免許返納による生活の
変化は、本人だけに降りかかるものではない。
時に同居する家族の生活をも一変させる
ことがある。
その後、完全な出不精になった父は、
年齢を重ねるごとに、小さな病気や定期健診
で病院に行く日が増えていった。
その度に父の「足」となるのは、同居人の
家族だ。
幼い頃、助手席から見上げていた父を、
こうして運転席から見るようになると、
彼が急に弱ったように感じる。
ある日、突然の歯痛で父を歯医者へ送迎
せねばならなくなったのだが、家族の都合
がつかず、調整に奮闘している最中、
父はいたたまれなくなったのだろう。
倉庫から自転車を引っ張り出し、診察券だけを
持って家を飛び出したことがあった。
少年期以来またいだこともない自転車。
車の運転以上に危険な行為だと、家から
5メートル先でもたつく父を必死に止めた。
10年もすれば、現在60代後半の母も運転
できなくなる日が来る。
そうなると「足」が1つ減り、出不精が1人
増えることになる。
最近、両親は住み慣れたマイホームを
引き払い、駅周辺への引越しをも検討し始めた
のだが、記憶障害を抱える父にとって、
引越しは異星へ移住するようなもの。
転居先で新たな問題をも引き起こしかねない。
筆者の父の場合、病気の発症によって明確な
「Xデー」があったが、一般的な認知症や身体的
衰えは、「ある日突然」起きるものではない。
それゆえ、年を取るほど必要になる車に、
自らの意思で「明日から乗らない」と踏ん切りを
付けるのは、相当な勇気がいることだ。
また、そんな高齢者の免許返納が、実質「介護」
の始まりになる家族も多く、現在の日本社会では、
高齢者が加害者にならないための代償は、当事者
や家族にとって決して小さいものではない。
■免許返納すれば良いという話ではない
筆者の父のケースから言えるのは、このような
免許返納後の不便を軽減するためには、「事前準備」
が重要だということだ。
免許を返納する前、認知症になる前、少しでも早く
公共交通機関やECサイト(ネットショップ)等、返納後、
大いに利用するであろうものに慣れておき、
「クルマのない生活」に備えておくことが、その後の
QOL急減を回避する鍵となる。
こうした日本の「高齢者ドライバー」問題は、高齢化
が進む他国でも注目度が高い。先日、アメリカの
有力紙「NY Tines」でも紹介され、話題になった。
中でも日本の動向を注視しているのが、韓国だ。
韓国の経済発展は日本よりも20年ほど遅かったため、
高齢者が車を運転する姿はまだ少ない。
が、比較的早く高齢化が進んでいるタクシードライバー
の交通事故が急増したことにより、日本の現状と韓国
の今後を比較しながら、取り組むべき事項を詳しく論じる
メディアも出てきている。
こうして「高齢者ドライバー問題」において、世界基準
になりつつある日本だが、現在、こうした免許返納を
以って高齢者ドライバーによる交通事故を減らそうと
する動きがベストであるかのような風潮が強まっている。
実際、改正道交法の施行以降、免許返納者への
公共交通機関の優遇定期券を発行したり、
本人による返納が原則のところ、家族の代理返納を
認めたりしている自治体はこの数年で急増した。
しかし、この問題の解決策を、「免許返納」だけに
見出すのは、高齢化一直線の日本の現状にとって、
あまりにもナンセンスだ。
実状、免許を返納した高齢者にとっては、現在の
環境は「快適」とは程遠い。
前出の「公共交通機関」においては、先に紹介した
優遇定期券の発行以外にも、小中学校が運営する
スクールバスを自家用有償旅客運送に転換するなど
して、高齢者の「足の多様化」を目指しているものの、
自身による車の運転との利便性と比べると、「待つ」
「持つ」「歩く」の負担は比べ物にならないほど大きい。
「ECサイト」の利用においても、操作や手続きが複雑
だったり、視聴覚対策が不足していたりといった理由
から、高齢者を十分に取り込めていないのが現状だ。
総務省が昨年公表した前年の実態調査によると、
世帯主が65歳以上である2人以上の世帯(高齢者世帯)
のECサイト利用の割合は、わずか14.3%。10年前の
4.9%から2.9倍に増えたものの、やはり割合自体は高く
ない。
このように、免許返納後のストレスを完全になくす
ことは、今のところ不可能であるのが現状なのだ。
高齢者ドライバーによる問題において、免許返納は
即効性や確実性のある抜本的な“対策”だといえる
だろう。
が、着実に加速していく高齢化の中、「運転者数」
だけを減らすことは何の“解決”にもならない。
誰もが今以上に安心して運転できるクルマの技術開発
や法整備など、運転環境の底上げも同時に強く議論・
研究していく必要がある。
人口構成比の高い団塊の世代が本格的な高齢者
ドライバーになる日は、もうすぐそこまで来ている。
【転載終了】
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私も、父には83歳の時に返納して
もらいました。
切っ掛けは、車を時々擦るようになり、
足腰の衰えも気になってきたからでした。
親の免許返納は、介護をしていない
方たちは理解しにくいかもしれませんが、
通院や買いものなどあちこち移動する
のは結構大変なものです。
どうしても家族の手助けが必要になります。
高齢になると公共の乗り物(バス・電車)
の乗り降りは難しいので、介護タクシー
などの充実が必要ですね。
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