内閣府の名目GDP成長率予測、的中率は25%しかない
Business Journal
【転載開始】
■内閣府の名目GDP成長率予測、的中率は25%しかない
内閣府が推計する名目GDP成長率の
予測は、中長期の財政再建計画を含め、
さまざまな政策決定に利用される。
このため、非常に重要な推計であるが、
その予測の的中確率はどうか。
以下の図表1は、内閣府の
「国民経済計算(SNA)」や「経済見通しと
経済財政運営の基本的態度」等から、
内閣府が予測した名目GDP成長率と
その実績を比較したものである。
この図表では、1998年度から2017年度
までの20回分の予測と実績を掲載して
いるが、この20回のうち、実績が予測を
上回っているのは5回(2000年度、03年度、
04年度、10年度、15年度)のみで、
残りの15回は実績が予測を下回っている。
すなわち、内閣府の成長率予測の的中
確率は25%(=5回÷20回)しかないことが
わかる。
しかも、1998年度から2018年度における
成長率予測(名目GDP)の平均は1.52%で
あるが、1998年度から2017年度の実績の
平均は0.15%しかなく、予測は実績の10倍
もの値となっている。
このような状況のなか、直近の予測
(政府経済見通し)をベースとして、
先般(2018年7月9日)、内閣府は経済財政
諮問会議において、「中長期の経済財政に
関する試算」(以下「中長期試算」という)の
最新版(7月版)を公表した。
前回公表(2018年1月版)の中長期試算
との比較を含め、そのポイントは以下の
とおりである。
まず、中長期試算では、高成長シナリオの
「成長実現ケース」と低成長シナリオの
「ベースラインケース」の2つのシナリオが
存在するが、どちらのシナリオの成長率も
概ね同じで、今回で大きな修正はなかった。
実際、2027年度における実質GDP成長率
は、成長実現ケースで2%(前回2.1%)、
ベースラインケースで1.1%(前回1.2%)で
あり、2027年度の名目GDP成長率は、
成長実現ケースで3.5%(前回と同値)、
ベースラインケースで1.6%(前回1.7%)で
ある。
次に、国と地方を合わせた基礎的財政収支
(PB)の対GDP比であるが、2025年度のPBは、
ベースラインケースで1.1%の赤字、
成長実現ケースでも0.3%の赤字となっている。
これは何を意味するのか。政府は6月に公表
した「骨太方針」の財政再建計画で、
PB黒字化の目標を2025年度に5年先送り
したが、それでも黒字化は達成できず、
追加の歳出削減や増税といった改革が必要
であることを意味する。
中長期試算の解釈で特に重要なのは
「成長率の前提」である。
1995年度から2016年度において、名目GDP
成長率の平均は0.3%しかないにもかかわらず、
低成長シナリオのベースラインケースでも
名目GDP成長率は1.6%と設定している。
このような楽観的な成長率の前提で、
本当に適切な財政再建のシナリオを検討
できるだろうか。
今回の中長期試算も、前回と同様、高めの
成長率を設定することで、図表2のとおり、
国・地方の公債等残高(対GDP)は一時的
に縮小していく姿になっている。
しかし、公債等残高(対GDP)の長期的な
見通しは異なる可能性も高い。
長期的な見通しは、ドーマーの命題を利用
すると簡単に計算でき、財政赤字(対GDP)
の平均的な見通しがq、名目GDP成長率の
平均的な見通しがnであれば、公債等残高
(対GDP)は将来的に「q÷n」の水準に
向かって収束していく。
例えば、財政赤字(対GDP)がq=3%、
名目GDP成長率がn=2%のとき、「q÷n=1.5」
で、公債等残高(対GDP)の収束値は150%と
なる。
図表2のとおり、中長期試算の最新版では、
低成長シナリオのベースラインケースに
おいて、2027年度の財政赤字(対GDP)は
2.8%と予測する。
名目GDP成長率の平均的な見通しが0.3%
ならば、公債等残高(対GDP)の収束値は
約930%(=2.8%÷0.3%)にも達してしまう。
財政の持続可能性を確保するためには、
財政赤字(対GDP)を一定水準まで抑制する
必要がある現実を示す。
繰り返しになるが、内閣府の成長率予測の
的中確率は25%しかない。
予測と実績の乖離に関する検証や改善方法
を検討する必要があることはいうまでもないが、
楽観的な成長率の前提に依存することなく、
慎重かつ適切な財政再建計画の検討を期待
したい。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)
【転載終了】
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名目GDPは少しいい数字にしておかないと、
対策を打たなければいけないからね。
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