民意と乖離した権力を生む小選挙区制の弊害・・・
HARBOR BUSINESS online
【転載開始】
民意と乖離した権力を生む小選挙区制の弊害
■一部の熱狂的支持さえあれば安倍政権は
強気でいられる。民意と乖離した権力を生む
小選挙区制の弊害
衆議院選挙に、小選挙区比例代表並立制が
導入されてから四半世紀(24年)が過ぎました。
この間、8回の衆院選が実施されました。
うち7回で、自民党を中心とする与党が議席の
多数を占め、政権の座につきました。
どの政権も成立直後は、支持率が高く出る
ものの、小泉政権を除けば、次第に50%を
切っていくのが通例になっています。
大半の政権は、支持率の低下で党内の求心力
も低下し、内閣総辞職に至っています。
しかし、2012年末に成立した安倍政権は、
支持率が50%を切っても、党内や支持者の
求心力は低下しないどころか、ますます高まって
いるように見えます。
こうした状況をもたらしているのは、支持率が
低下しても、選挙に負けないという政府与党と
支持者の強気な自信が、背景にあると考えら
れます。
実際、2017年10月の衆院選では、支持率と
不支持率が拮抗するような状況であったにも
かかわらず、選挙結果では与党の大勝となり
ました。
これを可能としているのが、小選挙区制を
中心とする現行の選挙制度です。
そこで、小選挙区制とはどのような選挙制度
なのか、政治学を学んだことのない方でも
理解できるよう、初歩の初歩から解説します。
■主権者とは何をする人?
選挙制度とは、主権者自らが行うべき法令
の制定や執行などについて、それらの役割を
代行してもらう人を、主権者の投票で代理人
として指名するシステムです。
といっても、これはちょっと難しい表現ですね。
かみくだいて説明しましょう。
法律をつくったり、それを社会に適用したり、
税金を集めたり、それを使ったりする権利を
持つ人、それを「主権者」と呼びます。
かつての日本やヨーロッパでは「国王」や「天皇」
が主権者でした。
それが、革命や戦争での敗北などによって、
国王等から「国民」に主権者が替わりました。
国王等が主権者といっても、法律をつくるなど
の業務(立法と行政)を、すべて一人で行って
いたわけではありません。
国王等が、代理人を自ら指名して「あなたに頼むよ」
と業務代行してもらうこともあれば、適当な方法で
選ばれた代理人に「よきに計らえ」と、
代理人の指名から業務代行までの一切を丸投げ
することもありました。
後者の適当な方法の一つに、国王等が一定の
条件で選んだ人々(例えば、貴族や金持ちなど)に、
すべてを任せるものがありました。
■選挙制度は「代理人」を選ぶ仕組み
国王等が貴族たちに「任せた」といっても、
貴族たちだけでもたくさんの人数がいて、
全員が集まって何かを決めたり、実行したり
するには、現実的でありません。
そこで、国王等から立法と行政を任された
人たちで、少数の代理人を決め、
代理人たちが実際に立法と行政に携わる
ことになりました。
その代理人を選ぶ方法が、選挙だったのです。
ただし、国王等が主権者の時代、すべて貴族たち
に任せたといっても、最後には国王等へ伺いを
立てて決まっていました。
国王等には、形式的であっても拒否権もありました。
しかし、主権者が国民となると、常に主権者たる
国民に伺いを立てていては、立法と行政が現実
の課題に対応できません。
そこで、原則として「代理人たちの決定」を
「主権者たる国民の決定」と見なすことにしました。
この考え方を「議会制民主主義」といいます。
原則としてというのは、極めて重要な案件や国民
の一定数が求めたときには、代理人たちの決定
の後、主権者たる国民自らの参加による決定の
プロセスを経ることもあり得るからです。
憲法改正手続が、そうなっています。
ちなみに、主権者が国民であるとしても、
選挙に参加できる「有権者」は、国民の中から一定
の条件で限定されています。
現在の日本では「18歳以上の日本国籍を有する人」
となっています。
有権者の条件をどうするかは、選ばれる公職ごとに
違っていいのですが、本論から外れるので、ここでは
便宜的に「主権者=国民=有権者」という前提で話を
進めていきます。
要するに、選挙制度とは有権者の代理人を選ぶ
仕組みということです。
■小選挙区制は「有権者の総取り」システム
小選挙区制の最大の特徴は、一つの地域
(選挙区)から一人の代理人を選ぶことです。
視点を変えれば、その地域のすべての有権者
の意思を一人の代理人が、代表します。
その地域のすべての有権者が、その代理人を
支持していると見なすわけです。
その代理人を支持しない有権者の存在は、
無視されます。
例えば、10万人の有権者がいるA選挙区で、
投票した有権者が6万人で、そのうち4万人が
与党候補者、2万人が野党候補者に投票したと
仮定しましょう。
A選挙区の代理人たる当選者は、与党候補と
なります。
この場合、A選挙区10万人の有権者すべてが、
与党を支持したことを意味します。
野党候補に投票した2万人と棄権した4万人は、
衆院での意思決定において考慮されません。
すなわち、存在しないものと見なされます。
つまり、小選挙区制は、選ばれた一人の代理人が
「有権者の総取り」をするわけです。
■「単純」小選挙区制が状況を複雑にする
小選挙区制といっても、代理人の選び方は
一つでありません。
日本の小選挙区制は、すべて「単純小選挙区制」
と呼ばれます。
これは、1位の票を得た候補者が当選する方式です。
加えて、一定の得票数(法定得票数)を上回らな
ければならない条件もありますが、これも本論から
外れるので、省略します。
フランス下院のように、小選挙区制であっても、
1回目の投票で過半数を得る候補者がいなければ、
上位2人による決選投票が実施される小選挙区制
もあります。
例えば、投票総数10万票で、保守A候補4万票、
保守B候補5千票、革新C候補3万5千票、
革新D候補2万票だと、A候補とC候補で決戦投票
となり、D候補がC候補の支援に回って、
C候補が当選することもあります。
日本のように、単純小選挙区制だと、A候補の当選
となるところですので、議会の構成がずいぶんと
変わることになります。
さて、単純小選挙区制のメリットは、分かりやすい
ことと、選挙を盛り上げやすいことです。
とにかく1票でも多い方が当選するというのは、
社会科で選挙制度を学ぶ前の小学生でも理解
できるでしょう。
また、互角の支持を持つ候補の対決となれば、
選挙運動する人も、投票する有権者も、メディアも、
みんな盛り上がるのは間違いありません。
デメリットは、民意を反映しにくく、民意と代理人
の間にかい離を生みやすいことです。
これも例で示しましょう。
ここに、それぞれ10万人の有権者で構成される、
10の単純小選挙区があるとしましょう。
それぞれA党とB党の候補だけが立候補したと
仮定します。
いかがでしょうか。
当選者数で見ると、A党がB党を大きく上回り、
圧勝しています。
けれども、得票総数は、B党がA党を上回って
いるのです。
A党の得票総数は、B党の74%でしかありません。
加えて、最大の総数は、棄権者なのです。
投票率にすると、62.5%となります。
ちなみに、2018年の衆院選の投票率は53.68%
でしたので、この仮定が特に低い投票率という
わけでもありません。
もちろん、この仮定では、選挙区ごとに有権者数
が異なる、いわゆる一票の格差もありません。
これは仮定ですが、実際に同様のことは起き
うるのでしょうか。
実は、2016年のアメリカ大統領選挙が、
まさにこうした状況でした。
得票総数では、ヒラリー候補が上回っていましたが、
当選したのはトランプ候補でした。
アメリカ大統領選では、州ごとに第一位の候補が、
獲得ポイント(選挙人)を総取りします。
ヒラリー候補は、カリフォルニア州やニューヨーク州
などの勝利した州で、トランプ候補に圧勝しました。
一方、トランプ候補は、勝利したほとんどの州で、
僅差でヒラリー候補に競り勝ちました。
大差で勝っても、獲得ポイントは増えませんし、
僅差で勝っても、獲得ポイントを総取りできるのです。
アメリカ大統領選は、50の単純小選挙区で選ばれる
代理人が、それぞれの保有ポイントを投じてリーダー
を選ぶ仕組みなのです。
これで、単純小選挙区制が、民意と代理人との関係
を複雑にし、民意を政治に反映させにくい仕組みと、
分かるでしょう。
■たくさんいる「小選挙区制」の代理人
このように書くと、衆院の小選挙区制の問題はある
としても、衆院の比例区や参議院があり、自治体の
知事や市区町村長、議員もいるので、小選挙区制
だけで日本の政治が動くわけではないと、指摘する
人もいるでしょう。
そこで、日本にどれくらい小選挙区制の代理人が
いるのか、調べてみました
(2018年8月現在。参院は2018年の法改正前の定数。
福島県、岐阜県は複数定数区としてカウント)。
衆院:289人(465人中)
参院:58人(242人中)
都道府県知事:47人(47人中)
都道府県議会議員:442人(2704人中)
市区町村長:1747人(1747人中)
意外に思われたかも知れませんが、一つの選挙区
から1位の得票の候補を代理人として選ぶ小選挙区制
は、衆院小選挙区の他にも数多くあるのです。
知事や市区町村長は、すべて小選挙区制です。
また、参院の1人区、都道府県議会議員の1人区も、
小選挙区制なのです。
また、都道府県議会の小選挙区は、都市圏に多い
のです。
小選挙区選出議員が20人を超える議会は、7府県
あります。
茨城県は定数63のうち22人、埼玉県は定数93のうち
27人、千葉県は定数95のうち20人、愛知県は定数102
のうち25人、大阪府は定数109のうち31人、兵庫県は
定数87のうち21人、福岡県は定数86のうち20人が、
小選挙区の選出です。
逆に少ない県は、地方圏に目立ちます。
小選挙区選出議員が2人以下の議会は、5県あります。
富山県は定数40のうち2人、滋賀県は定数44のうち1人、
和歌山県は定数46のうち2人、鳥取県は定数35のうち
2人、沖縄県に至っては定数48のうちゼロです。
さらに、目に見えない小選挙区の代理人は、
もっとたくさんいます。
カウントはできませんが、ほとんどの市区町村議会議員
です。
彼ら・彼女らのほとんどは、自治会や町内会、
集落等の単位で候補者を選定し、選挙運動をします。
見えない小選挙区の区割りが、あたかも存在するか
のように「オラが地域の候補者」を選出するのです。
つまり、小選挙区は衆院にとどまらず、
実態としては日本に多く存在しているといえるでしょう。
■首相指名も小選挙区制
首相指名は、465人の衆院議員を有権者とする
小選挙区制です。
首相指名では、衆院の議決が参院に優先します。
参院で誰を指名しようと、衆院の指名者が首相に
なるわけです。
衆院の定数465のうち、小選挙区選出議員は289人
(62.15%)です。その衆院で多数を得た人が、
首相になるわけです。
実質的に、小選挙区の二乗のようなことが、
首相指名で起きているわけです。
その分だけ、民意とのかい離が起こりやすいことも
意味します。
自民党から選出される首相は、行政の長であること
に加え、自民党総裁として、国会多数派の長、
都道府県議会多数派の長、市区町村議会多数派の
長となります。
なぜならば、衆院、参院ともに自民党が第一党です。
都道府県議会でも、市区町村議会でも、たいていの
場合、自民党議員(あるいは自民党の国会議員を
支援する無所属の保守系議員)で構成する会派が
第一会派です。
また、小選挙区(1人区)選出の議員は、国会と
都道府県議会を問わず、多くが自民党議員です。
そして、自民党の選挙では、小選挙区選出の
衆院議員が支部長として、あらゆる選挙に臨みます。
衆院選はもちろん、参院の全県区、知事・市区町村長、
都道府県議会議員、市区町村議会議員と、衆院の
小選挙区を要とした「選挙マシーン」がフル稼働します。
つまり、現在の自民党政権は、小選挙区制に支え
られているといっても過言ではありません。
小選挙区制は、自民党の生命線なのです。
■国会・議会に比例の要素を増やす
しかしながら、小選挙区制の民意を反映しにくい
点は、選挙制度として致命的な欠点です。
首相指名、都道府県知事、市区町村長の選挙が
小選挙区であることを避けられないとすれば、
それ以外の選挙を民意に比例的な選挙制度とし、
より多様な民意を反映できる立法と行政を実現する
必要があります。
民意に比例的な選挙制度とは、簡単にいえば、
30%の考え方は30%の議席、20%の考え方は
20%の議席と、考え方の支持割合と議席割合を
近づける制度のことです。
それでも、行政の長は小選挙区制(多数派)で
決まるので、完全に世論に比例的な立法や行政
になるわけではありません。
ただ、国会・議会が世論に比例的な構成であれば、
行政も国会・議会を軽視しにくいのではないでしょうか。
そして、その背後にいる有権者の意見も軽視しにくく
なり、より対話と合意形成に基づく政治・行政が展開
されることでしょう。
さて、小選挙区制に欠点があるとして、民意を政治
や行政に反映させるために、どのような制度が望ま
しいのでしょうか。
また、選挙制度の他に改善すべき点はないでしょうか。
それらの課題については、機会を改めて解説します。
【転載終了】
*************************
小選挙区比例代表制は、組織力を持つ政権党
(自民党)に有利な制度ですね。
名前の売れているタレントやスポーツ選手など
比例上位に登録し、無党派層を取り込むことが
出来ます。
議員一人に1億4000万円の経費が掛かると
言われてていますが、比例で当選し初登院で、
「これから一生懸命勉強します」と言っています。
勉強してから立候補しろよと言いたいです。
そもそも、小選挙区比例制はイギリスで始まった
のですが、弊害が多く、元の中選挙区に戻すような
意見もでてきています。
個人的にも、単純に投票できる中選挙区制が
好ましいと思っています。
そうなれば、チルドレン議員のようなレベルの
低い議員は当選することは難しくなるでしょう。
0コメント