もはや先進国ではない。

  冷泉彰彦『冷泉彰彦のプリンストン通信』 


 【転載開始】 


■もはや先進国ではない。

 なぜ、日本経済はスカスカになったのか? 

 2019.01.09  


 一部報道などでは日本経済の好調 

さが伝えられていますが、実感として 

受け止められないというのが正直な 

ところではないでしょうか。 

なぜこのような事態に陥っているので 

しょうか。 

米国在住の作家・冷泉彰彦さんは 

メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』 

でその理由を 

「日本の産業構造がおかしくなったため」 

とし、この「負のトレンド」を反転させな 

ければ国の繁栄と個人の成功はありえ 

ないと結んでいます。 


 ■スカスカになった日本経済、 

 どうしてこうなったのか? 


 経済新聞や安倍政権の周囲では、 

日本経済は絶好調だとか、 

多くの企業が史上空前の利益を上げ 

ているという声があります。 

ですが、そんな好況感は、日本全国 

を見渡すと全く感じられません。  


 国全体の「購買力」は弱り切った 

ままです。 

観光ブームということもありますが、 

結局はインバウンド、つまり訪日 

外国人が支えています。 

例えば、星野リゾートの場合は、 

価格帯によってブランドを分けて 

いますが、フラッグシップブランドの 

「星のや」の場合は、一泊二食で 

4万とか5万という強気の価格設定 

ですが、お客の多くはインバウンド 

です。  


 同じく北海道のリゾート産業の雄で 

ある「鶴雅グループ」は、支笏湖に 

「碧の座(あおのざ)」という超高級 

旅館を建設中ですが、同じく価格帯 

は4万から6万でこれもインバウンド 

がメインでしょう。 


 JR九州が「ななつ星」という予約制 

の豪華寝台列車を走らせて話題に 

なりましたが、もっと豪華なJR西日本 

の「瑞風」などは、シンガポールから 

ビジネスクラスで往復するパッケージ 

ツアーなども組んでいます。 


 とにかく景気がいい話は、インバウンド 

向けぐらいで、国内の需要向けについては、

相変わらず、オールバイキング 形式で

一泊二食7,800円とかが主流 です。 

コンビニなどの弁当や牛丼の価格は 

ワンコイン以下の安いままであり、 

それはそのまま多くの人の 

「昼食代の予算」を反映しています。 


 花火大会やパレードなど、 

「無料のイベント」が行われると、空前 

の人出になるので、結局は警備費が 

かさんで大会が中止になったりしますが、

では有料化すればどうかというと、 

いきなりパタンと客足は途絶えるわけです。  


 購買力の衰えということでは、 

例えば「若者のお金離れ」などという 

言い方があって、世代間格差が原因 

だという声もあります。 

また「非正規差別」が原因であり、 

派遣労働の規制緩和をしたのが悪い 

という論調も相変わらず多いわけです。 


 多くの専門職が 

「それだけでは生活できなくなっている」 

と言われています。 

例えば、タクシーのドライバーは、 

ウーバーやリフトがまだ上陸したわけ 

でもないのに、需要低迷と供給過剰 

のために苦しんでいます。 

また、バスの運転手の給与も低くなって 

います。 

電車の運転手に至っては、自動運転 

(実際は遠隔操作に近いので心配は 

要らないのですが)を本格化させる 

話も出ています。 


 例えば、安倍総理は毎年春になると 

財界に対して「もっと給与を上げてくれ」 

という要求をしていますが、 

財界サイドは総理に頼まれてもなかなか

賃上げに応じようとはしません。  


 報道では「史上最高の決算」とか 

「アベノミクス株高」などと言っている 

のに、どうして各企業は国内での賃上げ

を渋るのでしょうか? 

どうして昔はちゃんと生活できていた職が、

非正規になったり、給与が極端に安くなって

いるのでしょうか? 


 一部にはグローバルな労働市場が発達

したからだという意見がありますが、

海で囲まれた日本の場合に、モノは出入り

しますが、サービス業に関しては、

世界の安い賃金に影響されて日本も賃金が

下がるというのは、説明として納得感は

ありません。 


 何が問題なのでしょうか? 


 各企業が20世紀や昭和の時代と比べて、

著しく強欲になっていて、一部の管理職

重役だけが巨額の報酬を独り占めして

いて、給与を 切り下げているからなので

しょうか?  


 そうではない、ということをしっかり

理解することがまず必要です。  


 問題は日本の産業構造が 「おかしく」

なっているということです。 

もっといえば「スカスカ」になっている 

のです。 


 現在の日本には、昔のように 

「世界の市場で大きなシェアを持っている

エレクトロニクス製品」 とか

「集中豪雨的輸出だとして怒られるぐらい

世界で売れている自動車」などの製造業は

ほとんど残っていません。 


 では、何が残っているのかというと

具体的には日本の主要産業は3つ、 

・部品産業 ・日本語による非効率な事務

 仕事 

・観光がらみのサービス産業 

 があるだけです。 

勿論「だけ」というのはやや言い過ぎで、

日本国内向けの医療や福祉、サービス業は

あるし、自動車の場合 は一部は完成車も

作っています。 

ですが、主要な産業といえば、この3つに

なっているのです。 


 例えばスマホというビジネスがあり 

ます。 

世界の主要なシェアは、アップル、 

サムソン、LGそして元ノキアの 

マイクロソフト、元モトローラの グーグル

などがあります。 


 そして日本は部品産業に転落しています。 

液晶、半導体、アンテナ周りの複雑で

ミクロ部品など、日本の製造業がなく

ては世界のスマホは成立しません。 


 ですが、どんなに技術力を誇っても、 

部品産業はしょせん部品産業なのです。 

最終メーカーが価格も発注量も握っており、

部品産業はベンダーとして受け身のビジネス、

薄利かつリスクのあるビジネスになってしま

ます。  


 その昔、ソニーがウォークマンで世界の

若者文化を席巻したように、パナソニックが

「性能の良すぎる」 テレビやビデオ機器で

世界から怒られたりしながら、物凄い収益を

上げていたように、最終製品を作るという

ことはしていないのです。  


 例外としては、B2Bつまり法人や政府向け

ありますし、パナソニック の場合もこちら

逃げていますが、消費者向けの最終製品と

いうことでは、日本のエレクトロニクスの

場合は見る影もありません。 

東芝の場合は、何と言っても半導体やハード

ディスクですが、それすらも売ってしまい

ました。  


 事務ということでは、とにかく「原本」 

「ハンコ」「ファックス」「稟議書」 

「ファイリング」などといった昭和の化石の

ような日本語文書の管理ということが、

今でも官庁でも、民間でも 行われています。 

そこで職を得ている人は猛烈な数になり、

そのコストも膨大ですが、どういうわけか

日本の企業や政府はこれが止められない

わけです。  


 ですが、ここ数年、銀行業務が

フィンテック化して、人も紙も支店も不要

になって来ています。

 同じような革命が全業種と行政に波及しな

くては、この非効率な作業が日本経済を

滅ぼすと思います。 


 観光業ですが、すでにGDPへの貢献と

いうことでは自動車産業を超えたと言われ

ています。 

それ自体は結構なことで、プラスアルファ 

の経済として成立するのであれば、 

それはそれで良いことです。 

訪日外国人年間3,000万が実現し、 

政府目標の4,000万が視野に入ったという

のも良いことです。 


 ですが、問題は観光業というのは 

労働集約型であるし、低付加価値かつ 

固定費が高いビジネスだということです。 

それが主要産業だというのは、その国 

の経済としては決して立派ではありません。  


 つまり、産業構造として日本は先進国 

から滑り落ちそうになっているのです。 


 何がいけなかったのでしょう。

理由は次のようなことです。 

・自動車の次として宇宙航空に本格進出 

 できなかった 

・コンピュータ時代に合わせてOSやアプリ 

 などソフトの分野で負けた、どころか 

 コンピュータ関連の人材をバカにして 

 育成もしなかった 

・バイオや製薬で世界のトップを走るだけ 

 の人材育成や投資をしなかった 

・金融のグローバル化に全く対応しなかった 

・英語での事務仕事ができず、香港や 

 シンガポールにアジアのビジネスセンター 

 の座を完全に奪われ、そのことを恥じて 

 すらいない ということです。 

つまり全体の戦略が全く違っていたという 

ことです。 


 勿論、企業単位では例えばトヨタやホンダ、 

ソニー、コマツなど、多国籍企業として 

優良な企業はたくさんあります。 

ですが、その多くは、製造販売だけでなく、 

研究開発や設計も海外でやっているのです。 

そうした数字は日本のGDPにはなりません。 


 史上空前の利益というのも、その多くは 

海外の収益であり、連結決算では円安の 

おかげで膨張して見えるかもしれませんが、 

カネ自体は海外で再投資されています。 


 いやいや、日本企業は好業績で、

 配当もしているという反論もあるかもしれ 

ませんが、そもそも優良な多国籍企業の 

場合は、外国の株主が多いわけで、 

配当も海外でグルグル回るだけです。 


 今でも、経済新聞には 「海外の企業を買収」

とか 「日本製品が某国の交通システムで採用」 

とか、「某社の車がアメリカで人気ナンバーワン」 

といった記事が出ると、何となく嬉しい ニュース

ということになります。  


 ですが、これはマジックであり、日本国内の

GDPにも税収にも、そしてトリクルダウンと

いう形での好影響 も「全くない」のです。 


 私は、トランプ流の「経済ナショナリズム」 

は大嫌いですし、経済というのは国際分業 

によるグローバリズムが「最適解」になるし、 

それをねじ曲げると、最終的には経済は 

ダメになると思っています。 


 ですからこの日本流の空洞化について、 

税制や規制でなんとかしようとは思いません。 

ですが、これは明らかに敗北であり、 

敗北ゆえに貧しくなっているというのは 

厳然たる事実です。 

そのことから目を背けるというのは、 

やはり政治としても財界としても、 

あるいは世論としても間違っていると思い ます。 


 部品製造と、日本語文書による事務文書と、 

そして観光業が産業の柱などというスカスカ 

な経済はもはや「先進国クオリティ」ではあり 

ません。 

そのこと自体が失敗であり、敗北であり、 

歯を食いしばって、その負のトレンドを 

反転させることにしか、国の繁栄と個人の 

成功はないのではないでしょうか? 


 image by: Tupungato / Shutterstock.com 

冷泉彰彦 この著者の記事一覧 東京都生まれ。

東京大学文学部卒業、 コロンビア大学大学院卒。 

1993年より米国在住。 メールマガジンJMM

(村上龍編集長)に 「FROM911、USAレポート」

を寄稿。 

米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその

鋭い記事が人気の メルマガは第1~第4火曜日配信。


 【転載終了】 

 ************************** 


 日本の経済は、一人の人間のために、 

見せかけの景気を演出されています。 


 新成人の63%が日本の将来は暗い、 

と思ってるように、若い世代は預貯金 

をするようになっています。 


 安倍バブルがハジケルことを察知し、 

若い層に将来不安が芽生えているの 

でしょうか? 


 専門職としての、タクシーやバス、 

トラックの運転手は高齢化していま 

すが、それでも、タクシーやバス、 

トラックの運転手に女性の進出が 

多く目につくようになってきています。 


 IOTやAI化が進むと、益々、

人間の 携わる仕事が狭まっていきます

が人間はどう生きればいいのでしょう? 


LC=相棒's のじじ~放談!

時事関係や自動車関係などの記事を書いています。

0コメント

  • 1000 / 1000