「65歳から年金支給開始」を続けるのが到底不可能な理由・・・
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【転載開始】
■「65歳から年金支給開始」を続けるのが
到底不可能な理由
雇用延長の議論が行なわれている。
人生100年時代には、高齢者が働く
べきだという考えだ。
この背景には、年金支給開始年齢を70歳に
引き上げざるを得ないという事情がある。
年金の財政検証は、 「100年安心年金」
だとするが、これは高成長を仮定しない
かぎり実現でき ない。
現実的な経済成長を前提とすれば、
65歳の支給開始を継続するのは到底不可能だ。
■財政検証は
100年安心年金」を保障するが
日本の公的年金に関する公式の見通しは、
5年ごとに作成される「財政検証」で示され
ている。
最新のものは2014年に作成された。
その基本的な結論は、現在の制度のままで
年金財政は維持できるという ことだ。
すなわち、
(1)厚生年金の保険料率は12.4%で固定し、
これより上げない。
(2)厚生年金支給開始年齢は、2025年に
65歳まで引き上げる。
という前提の下で、
「所得代替率は、今後は徐々に低下するが、
経済が順調に成長するケースでは、最悪の
場合に43年度に50.6%となるものの、
それ以降も50%以上は維持 される」としている。
ここで、「所得代替率」とは、年金を受け取り
始める時点(65歳)での年金額が、現役世代
(モデル世帯)の手取り収入額 (ボーナス込み)
と比較して、どのくらいの割合かを示す指標だ。
モデル世帯とは、40年間、厚生年金に 加入し、
その間の平均収入が厚生年金(男子)の平均収入
と同額の夫と、40年間、専業主婦の妻がいる世帯
である。
■財政検証のトリック(1)
高すぎる実質賃金上昇率を想定
では、財政検証の結果を信じてよいだろうか?
そうはいかない。
なぜなら、財政検証は、巧みな仮定を置いて、
現在の年金制度の問題を覆い隠しているからだ。
とくに問題なのは、実質賃金上昇率と して、
きわめて高い値を仮定している ことだ。
この仮定を外すと、状況はまったく変わって
しまう。
この点について詳しく説明すると、つぎのとおりだ。
注意すべき第1点は、
「支給開始時に所得代替率を満たすように年金額
を決めても、実質賃金 が伸びれば、賃金に対する
年金額の 比率は低下していく」ということだ。
このため、実質賃金の伸び率が高い と、年金財政
の維持は容易になるのである。
その理由は、つぎのとおりだ。
保険料収入は、加入者数と保険料率を所与と
すれば、名目賃金上昇率によって決まる。
他方で給付は、既裁定年金額と物価上昇率に
よって決まる。
既裁定年金額は今後の名目賃金にも影響されるが、
今後10~20年程度の 期間を考えるのであれば、
その影響は無視してもよいだろう。
したがって、給付は物価上昇率によって 決まる
と近似してよい。
年金財政は、名目賃金上昇率と物価上昇率の
差、つまり実質賃金上昇率に強く影響されるの
である。
仮に実質賃金が毎年2%伸びれば、30年後には
年金の実質額は、裁定時の55%以下に減って
しまう。
財政検証で、財政が維持できる基本的な理由は
ここにある。
だが財政検証では、実質賃金上昇率がきわめて
高い値に設定されている。
実質賃金上昇率は、2004年の再計算では1.1%、
09年では1.5%とされた。
14年の財政検証では0.7%から2.3%の値が想定
された。
ところが、実際には、実質賃金の対前年上昇率は、
多くの年でマイナスになっている。
17年ではマイナス0.2%だった。
12年以降では、原油価格下落の影響があった16年
を除くと、すべての年でマイナス の伸びだ。
財政検証では、ケースAからHまでのすべての
ケースで、実質賃金伸び率はプラスと想定されて
いるが、これは楽観的と言わざるを得ない。
ケースHでは、実質成長率がマイナスで あるにも
かかわらず、実質賃金の伸び率が プラスだ。
これはあり得ない姿である。
したがって、実質賃金上昇率に関して現実的な
値を想定した場合を検討する 必要がある。
■財政検証のトリック(2)
マクロ経済スライドは実際には発動できない
注意すべき第2点は、マクロ経済スライドに関連
する。
これは、現役人口の減少や平均余命の伸びに合わせて、
年金の給付水準を自動的に調整する仕組みだ。
2009年の財政検証では、12年から38年までの
26年間にマクロ経済スライドが実行されるものと
されている。
毎年の切り下げ率は、公的年金の被保険者の減少率
(およそ0.6%)と平均余命の伸びを考慮した一定率
(およそ0.3%)の合計である0.9%とされた。
0.9%の切り下げを13年間行なうと、 年金額は11%
ほどカットされることになる。
ところが、実際の制度では、マクロ経済スライドの
発動に制約が加えられ ている。
すなわち、 「適用すると年金名目額が減少して
しまう 場合には、調整は年金額の伸びがゼロになる
までにとどめる」という限定化がなされ ているのだ
(注)。
つまり、年金の名目額を引き下げることは ない。
だから、物価上昇率が0.9%以上にならなければ発動
されない。
実際、マクロ経済スライドは、04年に導入された
にもかかわらず、15年まで10年超の期間、
一度も発動されなかった。
実施されたのは15年だけだ。
上で述べたように、マクロ経済スライドは
年金削減でかなりの効果がある。
しかし、「低成長経済ではそれを使えない」という
ことが問題なのである。
14年の財政検証では、マクロ経済スライドによる
年金額削減がどの程度になっているかを定量的に
示していない。
19年の財政検証では、この点をぜひ明らかにする
必要がある。
(注)調整できなかった分を、将来、賃金・ 物価が
上昇したときに調整する仕組み (キャリーオーバー)
が2018年4月から導入 された。
■ゼロ成長だと
まったく違う姿になる
結局のところ、財政検証では、高い実質賃金成長率
を仮定することによって、以上で述べた2つの意味で、
年金の財政運営を楽に見せているのだ。
しかし、現実の実質賃金上昇率はマイナス である。
したがって、最低限、ゼロ成長を基本にして議論すべき
である。
この場合には、上記の2つのトリックは、どちらも
働かない可能性が強い。
すると、年金財政は厳しくなる。
では、どの程度、厳しくなるか? 以下では、おおよそ
の輪郭を示そう。
この際、細かい計算をフォローしていると、 問題の本質
が見えなくなる。
それだけでなく巧みな仮定を置くことによって、結果を操作
することが可能になる。
そこで、ここでは、きわめてラフな議論を行なっておこう。
現在の日本の年金は、ほとんど賦課方式 になっている。
すなわち、給付はその時点の就業者が負担 する
(負担の形態は、保険料、または租税)。
したがって、ゼロ成長経済では、年金財政は、ほぼ人口構造
だけで決まってしまう。
こう考えてよい理由は、つぎのとおりだ。
第1に、保険料負担と税負担を区別しない点について。
支給額の2割は国庫負担であり、これは税を財源として
いる。
そして高齢者の中にも、働いて税を払っている人がいる。
だから、負担の一部は高齢者も負っている。
ただし、その部分は大きくない。
第2に、積立金の運用利益があるのは事実 であるが、
それは、保険料収入の1割未満にすぎない。
一般に運用利回りの高さが批判されることが 多く、事実、
それは問題なのであるが、 金額的に見れば、れほど重要
ではない。
■年金の支給開始年齢を70歳にしても、
負担は4割近く増加
65歳以上人口に対する15~64歳人口の 比率は、図表1に
示すとおりだ。
高齢者の定義を65歳以上とすると、
2015年には高齢者1人を2.28人の若年者で支えていること
になる。
ところが、高齢者の範囲を変えないと、この値は、41年
には1.50となり、65年には 1.34人となる。
すると、65年の負担率は、15年に比べて、 2.28/1.34
=1.70倍に引き上げる必要がある (図表2の1を参照)。
こうしないかぎり、現在の所得代替率を維持 することは
できないのだ。
しかし、このような負担増は到底不可能だろう。
つまり、財政検証の言う 「現在の保険料率で100年安心」
というわけには、とてもいかないのである。
そこで、保険料率の引き上げを行なうとともに、支給開始
年齢の引き上げや所得代替率の 引き下げが必要となる。
年金支給額を減らすには、支給開始年齢の 引き上げが大き
な効果を持つ。
支給開始年齢を70歳にすると、65年には 高齢者1人を1.83人
の若年層で支えることになる (図表2の2を参照)。
これを15年の65歳支給の場合の負担を1とした 指数で
見ると、1.36になる。
これでも大変なことだが、7割増に比べれば、若年者の
負担はかなり軽減される。
人口の見通しは変えられないので、以上述べたことから、
支給開始年齢の引き上げは、ほぼ不可避であることが分かる。
そうであれば、これを前提にして、老後設計を考える
必要がある。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター 顧問
野口悠紀雄)
【転載終了】
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一説によると、本来蓄積されていたと すれば、
年金原資は700兆円だそうです。
政治家も絡んだと思いますが、役人が浪費して
しまった結果、現在では130兆円 あまりという
ことでしょうかね。
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