ウクライナ戦争開戦から2年、NATO軍の元最高司令官が語る「敗北のシナリオ」
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【転載開始】
■ウクライナ戦争開戦から2年、NATO軍の
元最高司令官が語る「敗北のシナリオ」
NO MORE AID, PUTIN WINS
2024年2月20日
バフムートの戦いで経験豊富な兵士を失った
ことはウクライナに痛手だった(昨年11月)
KOSTYA LIBEROVーLIBKOS/GETTY IMAGES
<支援の打ち切りは「悪夢の始まり」か?
このまま西側が支援を出し渋れば、プーチンの
勝利を招くだけでなく、今後数十年の欧州の
安全保障地図が塗り替わる>
NATO欧州連合軍の元最高司令官で元米空軍
司令官でもあるフィリップ・ブリードラブは、
ウクライナ戦争の今後について3つのシナリオ
を描いている。
そのうち2つの結末は、ロシアの勝利だ。
「今と違う手を打たなければ、ウクライナは
敗れる。ロシアは兵力が多く、軍にも余力があ
る」と、ブリードラブは本誌に語った。
「西側諸国に見捨てられても、ウクライナは
勇敢に戦うだろう。しかし、さらに数万人の命
が失われ、最終的にはロシアに全土を制圧され
て、再びロシアの属国になる」
2013~16年にNATO軍司令官を務め、ロシア
による14年のクリミア併合の影響を目の当たり
にしたブリードラブは、その一方で一筋の希望
もあると指摘する。
「西側がウクライナの勝利に必要なものを供
与すれば、ウクライナはこの戦争に勝つ。西側
の政策担当者らが望むどおりの形で、戦いは終
わりを迎えるだろう」
西側が武器支援拡大を一向に決断しないこと
に業を煮やしたウクライナのウォロディミル・
ゼレンスキー大統領は1月、ロシアのウラジー
ミル・プーチン大統領との戦争はウクライナだ
けのものではないと訴えた。
「私たちが一丸となってとどめを刺すまで、
彼(プーチン)は戦いをやめないだろう」と、
ゼレンスキーは語った。
■「これはアメリカの戦いだ」
昨年12月に米議会では、614億ドルの対
ウクライナ支援を含む安全保障の予算案成立
が共和党の手で阻止されていた。
年末年始の米議会の閉会中、ウクライナは
ロシアからミサイルと無人機による攻撃を
5日間で500回以上受け、45人が死亡した。
米大統領選挙の共和党予備選では、
ドナルド・トランプ前大統領をはじめとする
候補者がウクライナ支援の打ち切りを訴えて、
支持を集めている。
開戦以来のアメリカの支援総額は790億ドル
を超え、世界最高だ。
米国家安全保障会議(NSC)の元上級部長
で、オバマ政権時代に国務次官補を務めた
トム・マリナウスキーは、共和党の妨害に
よってプーチンが勝つ可能性は「かなり高く
なった」と予測する。
「下院の共和党指導部は、ロシアの勝利を
後押ししたと非難されてもいいのか」と、
マリナウスキーは言う。
「議会で先送りになっても支障がない物事は
多い。たとえある日に敗れても、それを乗り越
え、後日に再び戦えればいい。しかし、今のウ
クライナには後日まで待つ余裕がない」
ブリンケン米国務長官(中央)は昨年9月にウク
ライナで10億ドルの追加支援を発表したが
BRENDAN SMIALOWSKIーPOOLーREUTERS
戦争が3年目に突入するなか、一部の米議員
からはゼレンスキーに対し、ロシアと交渉して
領土を割譲するよう求める声も高まっている。
だがワシントンのシンクタンク戦争研究所
(ISW)の昨年12月の予測によれば、戦争が
「凍結」された場合、あるいはもっと望ましく
ない「プーチン勝利」の場合には、悲惨な結果
が待っている。
ウクライナが敗れれば、NATO圏の国境に
沿う黒海から北極海に至る地域まで、ロシア軍
の接近を許すことになる。
しかもロシア軍はウクライナ侵攻前より規模
を拡大し、戦闘経験も積んでいる。
つまり、米軍のステルス機にしか突破できな
い高度な防空システムが必要になり、中国に
対する抑止力が手薄になる。
さらにISWは、戦争が「凍結」されれば
悪影響をもたらすと指摘する。
プーチンに対し、新たな戦争を仕掛けたり、
NATOとの対決に備える猶予を与えることに
なるためだ。
「ウクライナの戦いは、アメリカにとっての
戦いだ」と、マリナウスキーは言う。
「われわれはプーチンの勝利を見たくない。
ウクライナとアメリカ、そして同盟諸国がこの
戦争を今後1年以内に望ましい形で終結させら
れるかは、ウクライナ支援法案が成立するかど
うかに懸かっている」
■ウクライナは昨年6月に反転攻勢を開始した。
しかしウクライナや、武器を供与してきた
同盟国が期待したような結果は得られなかった。
「何よりも、制空権を確保することが重要だ」
と、ブリードラブは言う。
「われわれはウクライナが制空権を確保する
ために必要な支援を提供していない」
さらにブリードラブは、ウクライナには
短距離兵器が提供されているものの、
米陸軍戦術ミサイル(ATACMS)は最新版より
も能力面で劣る古い型が提供されていると語っ
た。
「われわれはウクライナの勝利に必要なもの
ではなく、戦いを続けるのに十分なものしか
提供していない」と、彼は言う。
ヨーロッパ外交評議会のグスタフ・グレッセル
上級研究員は、装甲機動車の提供が遅れたこと
がウクライナの反転攻勢の妨げになったと本誌
に語った。
グレッセルによれば、アメリカ製のブラッド
リー歩兵戦闘車やドイツ製のレオパルト戦車が
供与されたものの、ウクライナ軍機械化旅団の
結束や備えが今より優れていた段階で提供され
ていれば、もっと威力を発揮していただろうと
いう。
東部ドネツク州バフムートでの戦いが長引い
たために多くの経験豊富な兵士が失われたこと
も、ウクライナには大きな痛手だったと、彼は
語った。
反転攻勢の足を引っ張ったのは、航空支援の
不足だけではなかった。
「西側は、ロシアがGPS制御の誘導弾に迅速
に対処し、その効果を損なわせる能力を過小評
価していた」と、グレッセルは指摘する。
■冷戦期の戦略に切り替えを
さらに彼は「今年はウクライナにとって厳し
い年になるだろう。西側諸国はウクライナを
武器の面で優勢にするための砲弾や迫撃砲弾で
さえ増産していない」と語る。
その一方で、兵器供給などいくつかの条件が
改善されれば、来年の見通しは改善するだろう
と期待も示した。
ウクライナ軍は戦闘が始まった22年、
東部ハルキウと南部のヘルソンの奪還、
首都キーウからのロシア軍撃退やロシア海軍
黒海艦隊への攻撃などのさまざまな戦果を上げ
た。
だが元ウクライナ軍兵士で防衛アナリストの
ビクトル・コバレンコは、それがゼレンスキー
と米バイデン政権に「非現実的な目標」を設定
させることになったと語る。
「そろそろ西側諸国は、成果が確認できてい
る冷戦期の戦略に切り替えるべきだ」と、コバ
レンコは言う。
これは「ウクライナ国内とNATOの境界沿いで、
必要ならばどこででも、どんな手段を使ってで
もロシアを抑止し封じ込める」という戦略だ。
ウクライナにはいくつかの有利な状況がある。
黒海の北西部ではほぼ完全に主導権を奪還し、
ロシア海軍を撤退させた。
地上では、ロシアとクリミアをつなぐ陸橋に向
けて短距離迫撃砲を使えるところまで進軍を果
たした。
しかし今後数十年のヨーロッパの安全保障を
左右する戦争の次の段階で重要なのは、
アメリカによる支援だけではない。
ゼレンスキーはEUの支援がなければウクライ
ナが生き残ることは難しいと語っている。
そのEUからの500億ユーロの支援策について
は、EU内でプーチンの唯一の盟友であるハンガ
リーのオルバン・ビクトル首相が拒否権を行使
していたが、2月に入ってようやく合意にこぎ
着けた。
「西側諸国による支援は今後、ウクライナ国
内での防御施設の建設、多層防御能力の構築、
新兵の訓練や兵器の増産に焦点を当て直し、ロ
シアがこれ以上、領土を攻撃または奪取しよう
とした場合に応戦できるようにすべきだ」と、
コバレンコは言う。
「プーチンは自分が優位に立てる隙を探して
いる。しかしウクライナ戦略の重点を防御面に
移行し、抑止力と組み合わせれば、その隙はな
くなるだろう」
<本誌2024年2月27日号掲載>
【転載終了】
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>米大統領選挙の共和党予備選では、
ドナルド・トランプ前大統領をはじめとする
候補者がウクライナ支援の打ち切りを訴えて、
支持を集めている。
>一部の米議員からはゼレンスキーに対し、
ロシアと交渉して領土を割譲するよう求め
る声も高まっている。
共和党(トランプ政権)になれば、上記
のような可能性もあり得ますね。
そうなると、アメリカの信用はガタ落ちで、
覇権国家としての体裁は破綻するでしょう。
既に、欧州はアメリカに頼らないような
NATO軍と同等の機動部隊の創設を検討し
ています。
″もしトラ″が現実になった時のリスクは
大きいですね。
ガザ戦争にトランプ政権が全面的な肩入れ
の可能性もありますから。
アメリカ覇権が終わるときですね。
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